新料理長が提案する、野菜を通じたSDGsな食体験

田所シェフ

2023年4月より、奥伊勢フォレストピア「レストラン アンジュ」の料理長を引き継いだ田所厚樹シェフ(44歳)。野菜ソムリエの資格を持つ新料理長が提案するのは、三重県産の野菜を使った料理です。特に無農薬野菜や一般的には出回らない珍しい野菜にこだわり料理に活用しています。

シェフの取り組みの背景にあるのは、地域の農家とつながりを深め、社会課題の解決に繋げたいという想い。お客さまに食を通じた新たな価値を提案する、シェフの取り組みをご紹介します。

 

奥伊勢フレンチに新たな魅力を

地産地消にこだわり、松阪牛やジビエ、清流宮川でとれたアマゴや鮎、ワサビや山菜、キノコなど、奥伊勢を中心に三重県産の食材を使った料理を提供しているレストラン アンジュ。

料理長に就任した田所シェフは、テレビドラマのモデルになった「高校生レストラン まごの店」で知られる、三重県立相可高校食物調理科出身。県内のホテル・レストランや大阪のハイブランドホテルにて経験を積み、16年前にレストラン アンジュに入店。前料理長とともに奥伊勢フレンチの世界を築き上げてきました。

田所シェフ

「アンジュの奥伊勢フレンチは、一見オーソドックスなフランス料理に見えますが、奥伊勢の食材を引き立たせているところに特徴があります。

フランス料理では塩分や油脂を多く使うことが基本です。しかしアンジュでは前料理長のもと、早くから塩味(えんみ)を控えて素材を引き立てる味付けに取り組み、県外からのお客さまや地域の方に好評をいただいてきました。

アンジュでは地元で200年以上続く老舗酒蔵・元坂酒造の地酒もご提供しています。日本酒とあうフレンチであるのも、アンジュの奥伊勢フレンチの特徴のひとつかもしれません」

レストラン日本酒

期間限定でのご提供にはなりますが、ジビエもアンジュの料理の魅力のひとつです。

滋味深い赤身の旨味を感じられるように、ミディアムレアで調理するのですが、これは肉の状態が良いからこそできること。レストランの近くに加工場を持つ業者から仕入れる肉は、新鮮かつ処理がしっかりしているので臭みを感じないのです。

また料理には南三重で獲れた海鮮も使用しています。

伊勢志摩や鳥羽の方ですと伊勢海老やアワビ・カキあたりを主役にするところが多いでしょうが、アンジュがある奥伊勢は山間部ですので、あえて三重の地魚を中心に仕入れ。県外に流通しない珍しい魚も入るため、これもアンジュの料理のひとつの特徴となっています。

レストラン魚料理

「前料理長のもと築き上げてきたアンジュの奥伊勢フレンチの世界。そこにどのように自分の個性を加えていくべきなのか。料理長を引き継ぐにあたり悩んだのがそこでした」

 

料理をつくる・食べるを通じて、フードロスや生産者の地位向上に貢献したい

シェフ厳選野菜

料理長に就任する以前から田所シェフが注目していたのが、地域で生産されている珍しい野菜の存在です。

「数年前に野菜ソムリエ資格を取得したのをきっかけに、珍しい野菜を料理に使ってはどうだろうと考えるようになりました。伝手も何もないまま生産者さんを探したところ、SNSをきっかけに奥伊勢で多彩な野菜づくりに取り組む野菜農家さんたちを発見。メッセージを送るところから交流が始まり、次第に収穫を手伝うようになりました」

田所シェフ収穫シーン

そこでシェフが知ったのが、野菜の生産現場でのフードロス問題です。

例えばトウモロコシ農家では、大きな実を育てるために余分な身は小さなうちに摘み取って破棄してしまいます。若採りした実はヤングコーンとして美味しく食べることができるのですが、採算の問題で市場には出さず破棄されている現状がありました。

またある農家では、珍しい野菜の生産に農薬・化学肥料不使用の有機栽培で取り組んでおり、都心のマルシェやレストランとの直接取引があります。しかし都会の消費者に喜ばれるために、見栄えの良くないものはロスせざるを得なかったり、野菜を美しく包装することにコストや手間暇がかかっていました。

「この現状をどうにかできないかなと思っていたある日、収穫を手伝いにいくと『どうせ捨てるだけだから持って帰り!』と大量の野菜をお土産にいただいたんですよ。とてもアンジュだけでは使いきれない量だったため、料理人仲間に配って回ったのですが、これが美味しいと好評で。そこから、地元を中心にこだわって野菜をつくっている農家さんと、料理人や消費者をつなぐことに何か貢献できないだろうかと考えるようになりました」

提携農家での収穫

そこから少しずつアンジュで使う野菜を三重県産へと変えていった田所シェフ。さらに料理長就任を機に、地元大台町はもちろん松阪、津、伊勢で無農薬や有機野菜、珍しい品種の栽培に力を入れている生産者の野菜も厳選して仕入れるようになりました。

その中には、奥伊勢フォレストピアからも近いふたば農園さんなど、シェフ自ら足を運び、生産者と顔を合わせ話をしながら使う野菜や調理法を見定めている農園もあります。

提携農家

田所シェフが三重県産野菜を通じて皆さまに伝えたいこと。それは珍しい野菜や、無農薬・有機野菜の美味しさを通じて、地産地消やフードロス、志ある生産者への関心を高めてほしいという想いです。

「美味しいのはもちろんのこと、お客さまに新しい味や食材との出会いを提供したり、食事を通じてSDGsに貢献できるような体験を提供できれば嬉しく思います。そのためにも、今後も多くの地元農家とのネットワークを広げていきたいですね」

 

奥伊勢に泊まる体験に、新しい食の喜びを

田所シェフ調理風景

最後に、田所料理長が取り組む三重県産のこだわり野菜を使った料理をご紹介します。

まずは今年5月に発表した、野菜をふんだんに使ったプレートを主役にした《初夏のおまかせランチ》。こちらには無農薬・有機栽培を中心に10種類ほどの野菜を使用。うち半分は、一般流通がほとんどない珍しい品種となっています。

それぞれ調理法も変えており、イタリア・トスカーナを原産とするカーボロネロ(黒キャベツ)は、油を吹き付けオーブンで焼くことでチップ状態に。他にも、ピンク色が美しいカブや茎の部分が赤紫の品種で別名「紅法師」と呼ばれる紫水菜、糖度が高く食感が面白いミニトマト プチプヨなどを、生はもちろん焼き、蒸し、揚げ、煮と調理法を変えた上で一皿に盛り付け。中日新聞にも取り上げられ話題となりました。

「ディナーでの野菜料理開発はこれからですが、すでに肉や魚料理の添え物として三重県産の無農薬野菜や珍しい野菜を使っていますので、味はもちろん彩りの美しさも感じていただけると思います。また料理に使用した三重県産野菜については、店内黒板にて紹介しているのでご興味を持っていただけると嬉しいです」

自然の音しかしない贅沢な空間で、森に泊まり水と遊ぶ時間を過ごせる奥伊勢フォレストピア。ご宿泊の際はぜひレストラン アンジュの料理も、新しい視点でお楽しみいただけば幸いです。